狡猾な新歓ノウハウ…
「10万円用意できるか…?」
初めて大量に飲んだビールにまみれ、正常に機能しない頭でも、その言葉だけはまるでカミナリにでも撃たれたかのように、耳に入ってきた…。いや、むしろ耳を通してではなく、直接脳に響き、屍となった身体は無反応でも、脳から心臓に指令され、鼓動だけが大きく、早くなっているのがわかる…。目を合わさないが、声を発さない同期連中もおそらく同じ状況なのであろう…
カツアゲか…⁉︎
恐喝か…⁉︎
悪徳か…⁉︎
詐欺か…⁉︎
ニュースでよく見る大学生の悪業が、まさか自分の身に降りかかろうとは…そんな被害者妄想を抱きながら、事が終わるのを待ちわびていた…。心の中では、金を奪おうにも、手元にも家に帰っても、10万円なんてそんな大金が自分には無いと開き直り、一方ではお金が無いと分かったらこの人達は何を仕出かすのだろう…と、いくらか殴られることを覚悟し始める…
そんな我々の様子を面白おかしく一通り楽しんだのだろうか、先輩達は一同に口を開く…
登山するのにまず10万円かかるんだ…
登山するには最低限の装備が必要だ…
登山は安全が第一で、それはつまり装備だ…
登山やりたいだろ⁉︎ 一緒に行こうぜ…
やはり10万円が必要だということには変わりはないが、カツアゲされ、数発殴られる覚悟をしていた我々からすると、なんて優しい先輩達なんだと錯覚を覚えてしまう…。あくまで比較だが、昼間教室で行われた新歓説明会の中で滔々と「登山するには10万円かかる…」なんて言われたら、すぐに教室から出ていたかもしれない…と思うと、このワンダーフォーゲル部で脈々と受け継がれた伝統のノウハウかもしれない…
登山を始めるのに、かかる初期費用…
更に、詳しく語られたのは、安全に登山をするには、最低限以下の山道具と初期費用が必要らしい…
- 登山靴 20,000円
- 雨合羽 20,000円
- ザック 20,000円
- 寝袋 10,000円
- 山シャツ、ポリタンク、ヘッドライト、マット などなど
理解はしたが、そんな大金をすぐに用意できるか?なけなしの貯金を切り崩していいのだろうか?酒が回り朦朧とした状態で、そんな考えが頭を駆け巡る…。狡猾?な勧誘に錯覚を覚え、いつの間にか断るつまりは入部しないという選択肢は頭に無く、どうお金を工面するかだけを考えていた…
<推薦図書>
人気アウトドアライター 高橋庄太郎氏が衣食住20種を徹底解説!山岳ギアガイドの決定版!『PEAKS』で3年にわたって断続的に連載してきた「マウンテンギア研究所」を1冊に!バックパック・テント・スリーピングバック・スリーピングマット・シングルバーナー・クッカー・マルチツール&カトラリー・ウォーターボトル・ヘッドライト・スタッフバッグ・トレッキングポール・トレッキングブーツ・ゲイター・パンツ・機能系ウェア などなど…
書籍名:山道具 選び方、使い方
著者名:高橋 庄太郎